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自閉症の人の見ている世界

みなさんは「自閉症」と聞いて、どんな人をイメージされるでしょうか?
全く自閉症と関わったことがない人ならば、「自閉症」という文字から、「自らの心を閉ざす人」というようなイメージを持っておられるかもしれませんね。しかし、そんな風に感じておられる方も、ぜひ一度、彼らの世界をのぞいてみてください。そこには予想外の世界が広がっていることでしょう。

私の自閉症との出会いは、娘が自閉症の診断を受けたときから始まります。
子育てをしていて、「なんでそうなるのかな?」と不思議に思う行動が多くて難しいなと感じていましたが、彼らの行動の意味が少しずつわかってくると、なんだか自閉症の我が子と、深いところで心が通い合ったような気持ちになれました。同時に、自分の知らなかった世界に触れて、なんとも言えない充実感を感じたのをよく覚えています。

 

エピソードを一つご紹介しましょう。 

娘もベビーカーを卒業するころになると、私と手をつなぎながら、歩いてお出かけするようになりました。ところが、なぜか駅周辺に来ると、いつも突然両手で耳をふさいで、目をつむって走り出すことがあるのです。急な飛び出しは危ないので困っていました。いつも同じ場所で起きるので、その場所に何か原因があるのか…と思いきや、別の場所でも、また同じようなことが起きるのです。何かを怖がっているようにも見えました。謎の多い行動でした。無理やり連れて行こうとすると、大きな声を出したり、パニックを起こしてしまうこともしばしば、周りの人からの冷たい目線が気になることもありました。「この子は何が嫌なんだろう?」と、あれこれと想像をめぐらしながら、ただひたすら行動観察の日々でした。

そんなある日、ふとあることが目に留まりました。パニックを起こす場所からは、いつも同じ種類の看板が見える、ということに気づいたのです。それは、黄色と黒の某企業のマークで、街中で結構見かけるものでした。もしかして…と思って、家でそのマークを見せてみると…ビンゴでした。家でTVを見ているときでも、突然別の部屋に逃げていくことがあったのですが、実はそれも、その企業のコマーシャルが流れた瞬間だということがわかりました。その後、なるべくそのマークを避けて歩くようにしたところ、外でパニックを起こすことは、みるみるうちに減っていったのです。

原因がわかってから、彼女の視点に寄り添うように行動を観察してみたところ、娘は目から入ってくる刺激に強く反応すること、嫌いなマーク、キャラクターやコマーシャルがいくつかあるということ、またそれが流動的であることに気づいたのです。

 

我が子の行動の意味や理由が少しずつ分かってきたおかげで、パニックを事前に防げるようにもなってきました。そのことを機に、今まで意味不明だった娘の行動に対処する“コツ”が少しずつつかめるようになり、難しい子育ての中にも、楽しみを見つけられるようになっていきました。

ちなみに、娘は10年以上そのマークを怖がっていました。成長したのち本人になぜそのマークが怖かったのか聞いてみましたところ、「そのマークが人の顔に見えたり、ライオンに見えたりして怖かった。黄色と黒という色のコントラストが怖く感じた。今は、全然大丈夫だけどね」 と教えてくれました。

 

自閉症の人の行動には、必ず何か理由があるのです。一見、難解に見える自閉症の人の行動も、彼らの世界に触れてみたとき、それは実にシンプルであり、彼らは信じられないほどピュアな心の持ち主だということがわかっていただけるのではないかと思います。

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2021年、世界自閉症啓発デーに合わせた特別コラムをつくりました。簡単な説明ではありますが、自閉症・発達障がいのことをお伝えしています。
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コラムtoiroは、発達障がいやコミュニケーションに苦手さを感じているご本人、学生さん、お子さんを応援するコラム。名前は、十人十色からつけました。
読者の方にとって、少しでも役に立つヒントになればうれしく思っています。
不定期ですが、ちょっとずつ更新していきます。

この記事を書いた人
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発達障がいのある二人の成人の母+就労支援事業所の支援員。
2人を育てた経験を活かし、自閉症スペクトラム支援士、ペアレント・メンターとしても活躍中。
最近は、ドラマを見ながら眠ってしまって結末が見れない母のために、それを見越して、そっと録画予約をしておいてくれる優しい息子と娘に感謝する毎日です。