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【toiro】上書きの旅

日中の強い日差しに初夏を感じるような季節になりましたが、今年はなんだか気温差が大きくて、体調管理が難しいですね。そんな中、まだ朝夕と肌寒い北海道へ、久しぶりに娘と2泊3日で旅行に行ってきました。新千歳空港には、東南アジアからの直行便が次々と到着しており、観光地は海外からの旅行客でいっぱいでした。

 

今回の旅行の目的は「記憶の上書き」。娘の修学旅行での辛かった思い出を、楽しい思い出に書き換えるための旅行です。

学生時代「〇人のグループに分かれて」と言われると、たいてい仲良しグループで集まるので、あぶれた人は…結局人数合わせで、よく知らない人のグループに入れられる…人付き合いが苦手なASDの人なら、一度は経験があるのではないでしょうか?

 

我が家の娘も、そんなグループ分けで高校の修学旅行に参加しました。最終日の4人グループでの自由行動で問題は起きました。各メンバーの行きたい所を順にまわって、最後に娘が希望したテーマパークに到着した時に、メンバーの一人が「見学はしないでいいから、早く帰りたい」と言いだし、あとの二人もそれに同調し始めたそうです。見学コースを楽しみにしていた彼女にとって、その変更は、とうてい受け入れられるものではありませんでした。自分たちさえよければいいというあまりに自分勝手な行動に、悲しくて涙が出てきたそうです。誰にも相談できず不安でいっぱいになり、どうしようもなく私のスマホに電話をしてきました。電話の向こうから、不安と必死で戦っている様子が伝わってきました。私には寄り添って話を聞いてやることしかできなかったのですが、とにかく本人を安心させてやりたくて、「またいつか、お母さんと一緒にゆっくり見に行こうね」と言いました。その言葉に「ありがとう」と返してくれました。

後から本人に聞くと、「その時のお母さんの気持ちが嬉しかった、その一言で気持ちがすっと楽になった」のだそうです。なんだかんだと何とかその場を切り抜け、無事に帰ってきたのですが、その後も修学旅行や北海道の話が出るたびに、そのつらい思い出がよみがえってくるようで、何度も同じ話を繰り返し、トラウマになっているようでした。これは何が何でも約束を守らねば…と思い続けて7年目。ようやくチャンスが巡ってきて、有言実行できたというわけです。この旅で、楽しい思い出が上書きできるよう、時間を十分とって、本人が納得いくまでとことん付き合ってきました。

 

修学旅行での経験は辛いものでしたが、それは経験値として残り、乗り越えたことへの自信につながっていくでしょう。そして、つらい思い出は、上書きすることで消し去ることはできなくても少しずつ楽しい記憶に入れ替わっていく…はずです。

ASDの人の特性として、いやな記憶がフラッシュバックしやすいということがよく言われます。記憶力が良いのは強みではありますが、いやな記憶が忘れられないというデメリットにもなりうるわけです。「記憶の上書き」…そんな生き辛さを抱えた人たちのヒントになればうれしいです。

 

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コラムtoiroは、発達障がいやコミュニケーションに苦手さを感じているご本人、学生さん、お子さんを応援するコラム。名前は、十人十色からつけました。
読者の方にとって、少しでも役に立つヒントになればうれしく思っています。
不定期ですが、ちょっとずつ更新していきます。

この記事を書いた人
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発達障がいのある二人の成人の母+就労支援事業所の支援員。
2人を育てた経験を活かし、自閉症スペクトラム支援士、ペアレント・メンターとしても活躍中。
最近は、ドラマを見ながら眠ってしまって結末が見れない母のために、それを見越して、そっと録画予約をしておいてくれる優しい息子と娘に感謝する毎日です。