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【toiro】「本人の納得感を大切にする」~親としての実体験から学んだこと~

街路樹も色づき始め、紅葉の季節の訪れとともに、いよいよ秋も深まってまいりました。
朝晩は冷えこむこともあるので、日中との気温差もあり、体調管理が難しい季節ですね。

 

さて、先日久しぶりに自閉症の子の親としての経験を語る機会があり、自分の子育てについて振り返ることができました。私の実体験から得た学びが、何かのお役に立てればと思い、いくつかのエピソードをご紹介させていただくことにしました。

まず「子育てでうまくいったことは何か?」という質問に対して答えたことをご紹介しましょう。そもそも子育てのゴールは不明確なので、何をもってうまくいったと言えるのか…と悩みましたが、小さい頃から親として大切にしてきたことの中から「本人の納得感を大切にする」ということをお話ししました。

 

我が子は、高機能タイプのASDで、小さい頃からいつも「なんで?どうして?」と聞いてくる子どもでした。私にとっては当然であることに対して「なんでそうするの?」と改めて聞かれると、「えっ、それは…」と言葉に詰まってしまうこともしばしば。「ボーっと生きてんじゃね~よ!」とは言われませんでしたが、なかなかの難題もありまして、そのたびに必死で意味を調べていたのを思い出します。

教えたことはきっちりと覚えますので、場当たり的に適当なことを言っていると、後日「お母さんは○○って言ってたよ」と必ず突っ込まれます。記憶力については勝ち目がないことは分かっていたので、私はとにかく正しいことを、本人がわかるように伝えることに一生懸命でした。特に、言葉を字義通りに受け取るため、言葉の裏にかくれている意味を説明するのが難しかったです。

たとえばよく聞く話で、「お風呂を見てきて」と頼まれたので見に行ったが、お湯が溢れているのに栓を止めることもしないで戻って来て、あとで叱られた…というのがあります。本人は言われた通り「見てきた」わけですから字義通りに考えると間違ってはいません。ただ、言葉の裏にある「お風呂を見て、お湯が溢れそうだったら止めてね」という、太字の部分がわからなかっただけなのです。そこで「そんなこともわからないの?」と行動を否定してしまえば、自分はダメな子だ…と自信を無くしてしまうでしょう。でも、本当にダメなのは、その子の特性を理解せず、言葉足らずで「本人がわかるように伝える」ことができなかった方なのですよね。

 

我が子は、小・中・高と、授業でわからなかったことや連絡事項を再確認するために、休み時間や放課後によく先生に聞きに行っていました。一般に人から見ると、「えらいね、勉強熱心だね」という風に思われるのですが、本人にはそんな意図はなく、”わからないことをわからないままにしておくことができない”という、不安に対する強迫観念のようなものがあったと言います。

大事なことだと一度聞いても不安で納得できず、間違いがないか確認したくて聞きに行くと、「ちゃんと話を聞いてないからでしょ」と言われ、傷ついたこともありました。先生方には本人の行動の意味を伝えて、「納得できないと前に進めない反面、納得さえすればスムーズに進める」という強みを活かしていただけるようお願いしました。

多くの先生がお忙しい中、少しでも時間を作ってくださったこと、無理な時には丁寧にその理由を説明してくださり、できる限り本人に寄り添ってくださったことには本当に感謝しています。

 

これらの体験から、本人は自分を否定されることなく、受け入れてもらえたことで、安心して自分の気持ちを伝えることができるようになりました。

そして今現在、それらの経験を積み重ねてきたからこそ、心に余裕が生まれ、相手の都合や、相手の気持ちにも気を配れるようになったのだと思っています。

 

「本人の納得感を大切にする」ということは、言い換えれば「その人の行動や考え方を否定することなく、ありのままのその人を認めて受け入れる」ことだと思うのです。そんな「ありのままの自分」で安心して過ごせる環境の中で生活をすることで、自然と自己肯定感が育まれ、「I am OK,you are OK」という気持ちが生まれてくるのではないでしょうか。

※次回は、本人にとっての納得感について考えてみたいと思います。

 

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コラムtoiroは、発達障がいやコミュニケーションに苦手さを感じているご本人、学生さん、お子さんを応援するコラム。名前は、十人十色からつけました。
読者の方にとって、少しでも役に立つヒントになればうれしく思っています。
不定期ですが、ちょっとずつ更新していきます。

この記事を書いた人
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発達障がいのある二人の成人の母+就労支援事業所の支援員。
2人を育てた経験を活かし、自閉症スペクトラム支援士、ペアレント・メンターとしても活躍中。
最近は、ドラマを見ながら眠ってしまって結末が見れない母のために、それを見越して、そっと録画予約をしておいてくれる優しい息子と娘に感謝する毎日です。