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【特別コラム】自閉症の文化

この特別コラムは、世界自閉症啓発デーに合わせて毎日配信するコラム。
簡単な説明ではありますが、自閉症・発達障がいのことをお伝えしていきます。
詳しくはこちら。

 

みなさんは「異文化」と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?国や人種の違いとか、宗教の違いなどが、頭に浮かんでくる方が多いのではないでしょうか。

 

「異文化」とは何か? 辞書には、「価値観や言語,習慣や行動様式など,自分が親しんでいる文化とは規範・営みの異なる文化」というように書かれています。

20年ほど前、私は自閉症に出会い、自閉症の子どもたちとどう向き合っていけばよいのかを模索する中で、ある日、自分に中にストンと落ちる話に出会いました。それが、「自閉症を異文化として理解する」ということでした。

 

分かりやすい例をあげてみましょう。定型発達の人たちの多数派(メインストリーム*注1)の社会では、人とコミュニケーションをとる際に、よく「冗談」とか「お世辞」を言ったりする文化があります。それは、場の雰囲気を和らげたり、相手を気遣い、相手がいい気分になるような雰囲気づくりをして、やり取りをスムーズにしようという狙いがあってのことです。メインストリームの社会では、これらは良い人間関係を構築するためには、とても意味のあることです。

一方で、自閉症の人たちには「冗談」や「お世辞」は理解しにくいものです。相手の気持ちを読み取るのが苦手なうえ、彼らは本当に正義感が強く、正しく生きたいと思っている人たちですので、おいしくないものをおいしいと言ったり、事実でないこと、すなわち嘘を言うことをすんなりとは受け入れられないのです。つまり、彼らにとっては場の雰囲気をよくすることよりも、事実を正しく伝えることに価値がある、ということですね。

 

この例からも分かるように、両者の価値観は全く違います。価値観が違えば、当然行動も違ってくるわけで、自閉症の人と定型発達の人の間にすれ違いが起こっても何ら不思議はありません。そこで、「自閉症は異文化である」と考えれば、多くのことが納得できるのです。

 

では、異文化を持つ人たちに対して、私たちはどんなアクションを起こせばよいのでしょうか? 少し視点を変えてみると…答えは、意外と身近なところにあるかもしれません。

たとえば、自分のクラスに文化圏の違う海外からの転校生が入ってきたら…あなたならどうしますか?言葉も習慣もわからない人に、いきなり周りと同じようにすることを求めますか?おそらく、片言の英語や身振り手振りを使ってわかるように説明したり、少々失敗があっても手伝ってあげたり、温かい目で見守ってあげるのではないでしょうか? 異文化という意味では、海外からの転校生も自閉症の人も同じですよね。

自閉症の人は、自らコミュニケーションをとったり、目に見えないものを理解するのが苦手ですので、まずは私たちから彼らの文化に歩み寄っていくのが良いでしょう。

そのあとから、先ほどの例でいえば、私たちがどういう理由で冗談やお世辞を言っているのか…ということを彼らが理解できる方法で伝えていけばよいのです

 

文化には、どちらが良くて、どちらが悪いということはありません。大切なことは、お互いの文化を尊重して、理解し合えるようになることです。
見かけは自分たちと同じでも、考え方や感じ方の違う別の文化を持つ人たちが、自分の周りにはたくさんいるんだということを、まずは知ることがスタートです。

自閉症の文化が広く理解されて、自閉症の人も定型発達の人もお互いの文化を尊重しながら、いつかメインストリームで、みんなが自分らしく生きて行けるような、そんな日が来ることを願ってやみません。

*注1:メインストリームとは、主流・本流、主流派を意味する