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【toiro】「こだわり」の理由を考えてみる

先日、木立のそばを歩いていると、どこからか「ホーホケキョ、ケキョケキョ…」とうぐいすの谷渡りが聞こえてきました。とても美しい声だったので思わず見上げると、新緑と空の青さのコントラストがとてもきれいで、しばし足を止めてしまいました。

 

さて今回は、私の娘のこだわりの話をさせていただこうかと思います。

娘には小さい頃から、少しでも手が汚れるとすぐに洗いに行くという強迫的な行動が見られました。お金をさわるのが難しかった頃もありました。小学校の頃、手が鉛筆で汚れたり、落ちた消しゴムを拾ったりすると、突然教室を飛び出て廊下に手を洗いに行くということが習慣になってしまい、先生方が困っておられました。

私は小さい頃から娘を見てきて、彼女が何かにこだわる時には必ず理由があるということに気づいていましたので、理由は何かと考えてみました。そして、彼女のこだわりの理由は、「汚れたらすぐに洗い流すことでバイ菌の侵入を防ぐことができるので安心!」ということだと気づいたのです。

不安の強い子ですので、不潔への恐怖から解放されて安心するために必要な行動だったのでしょう。これは正しいことです。

先生方が問題視していたのは「授業中にもかかわらず突然教室を出ていく」という行動ですから、ならば教室を出ないで彼女が安心できる方法はないか…と考えた結果、携帯用のハンドジェル(消毒剤)を持たせてみることにしました。これで手を消毒すると、手を石鹸で洗うのと同じ効果があることを説明したところ、ピタッと教室を出ることはなくなりました。代替の行動に切り替えたことで、彼女は自分のこだわりについて「やめなさい」と言われずにすんだのです。

あの時、もし無理やりこだわり行動をやめさせようとしていたらどうなっていたんだろう?と思い、成人した本人にちょっと聞いてみました。すると、「自分を否定されたような気がして悲しかったと思う」という答えが返ってきました。

 

自閉症の人の「こだわり」は周りの人から見ると時には意味不明のことであったりもしますが、その人にとってはとても大切な深い意味を持ったものなのかもしれません。他人からすれば意味のないことだからと言って、頭ごなしに非難したり、やめさせようとするのは、結果その人を傷つけてしまうことになるかもしれないということを、忘れないようにしたいものですね。

私は、皆さんのこだわりの行動の裏側には何かしらその人なりの理由があると思っています。人に迷惑をかけるようなこだわりは困りますが、そうでないのなら、できるだけこだわりは尊重できればいいなと思うのです。そうは言っても集団の中では、一人一人のこだわりを受け入れるのは難しいこともあるでしょう。たとえそうであっても、相手を理解しようとする気持ちを持つこと、そういうところから信頼関係というものは育っていくのではないでしょうか。

 

娘の話に戻りますが、それ以来、彼女はどこへ行く時にも、そのハンドジェルを忘れることはありません。いつもバックに入れて持ち歩いています。でも、それを忘れたからといって大騒ぎすることもありません。なければ手を洗えばよいと代替の方法を知っているからです。

 

今では当たり前の風景になりましたが、お店にはよく消毒液が設置されています。彼女は昔からずっと、目に入ればそこまで行って必ず使っていました。それも長年の彼女のこだわりでした。それが今はどうでしょう。コロナウイルス感染拡大防止のためにみんなが使っているではありませんか。

彼女の長年の「こだわり」は、今や「世間の当たり前」になってしまったのです。

 

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コラムtoiroは、発達障がいやコミュニケーションに苦手さを感じているご本人、学生さん、お子さんを応援するコラム。名前は、十人十色からつけました。
読者の方にとって、少しでも役に立つヒントになればうれしく思っています。
不定期ですが、ちょっとずつ更新していきます。

この記事を書いた人
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発達障がいのある二人の成人の母+就労支援事業所の支援員。
2人を育てた経験を活かし、自閉症スペクトラム支援士、ペアレント・メンターとしても活躍中。
最近は、ドラマを見ながら眠ってしまって結末が見れない母のために、それを見越して、そっと録画予約をしておいてくれる優しい息子と娘に感謝する毎日です。