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【toiro】サリーとアンと、思いやりの伝え方

「私は失礼なやつなのではないか?」「優しさが足りていないのではないか?」
新たな節目の季節、そうやってお悩みの方を見かけると、私は「サリーとアン課題」のことを思い出します。内容は次のようなものです。

①同じ1つの部屋にサリーとアンがいます。部屋には赤い箱と青い箱が1つずつあります。
②サリーはおやつを赤い箱に入れて部屋を出ました。
③アンは赤い箱からおやつを取り出し、青い箱の中にしまいました。
④部屋に戻ってきたサリーは、おやつを食べようと考えています。サリーはどこを探すでしょうか?

 

こちらの問題は「心の理論」、すなわち「自分以外の誰かの心を推測したり理解したりする力」を見るためのものです。
(ちなみに正解は「サリーの箱の中」。部屋を出ていったサリーの視点と、問題を読んでいる自分の視点を区別できるかどうかが確認されています)

発達障がいの私たちにおける、対人関係の問題について、この「心の理論」との関連は以前より指摘されています。
では「心の理論」をクリアできれば、よい人間関係をつくることができるのでしょうか? ……実は、必ずしもそうではないようなのです。

 

この「心の理論」、相手の視点が理解できる力です。意地悪く言うとそれだけです。思いやる気持ち、相手に優しく接したい気持ちがあるか? とは無関係です。
「心の理論」を持っていても、周囲に辛く当たり、居心地の悪い人間関係を築いてしまう例はあります。[1] 逆もまた同じ。「心の理論」を持つのが難しくても、思いやりのある人間関係を築くことはできるのです。

もちろん、気持ちだけがあっても、理解してもらうことは難しいでしょう。思いやる気持ちからとった言葉や行動を、相手に受け取ってもらえてはじめて、私たちは「思いやりのある人」になります。
ではどうするか? 学べばいいのです。
本や体験記録を読んで、過去の例を知識として学ぶこともできます。どうしてもわからないときは、相手に直接質問することだってできます。「〇〇しましょうか?」「何かできることはありますか?」……これらは質問の仕方を知っているかどうかの問題です。「心の理論」がわからないと落ち込む必要さえありません。

 

思うに、優しくありたいとお悩みの時点で、皆さま既に優しい気持ちはお持ちなのではないでしょうか。
だとしたら、問題は半分以上解決したも同然です。苦手な力を補う方法はたくさんあるし、何より、肝心な気持ちはしっかりあるんですから。

 

参考:
[1] 発達障害児の対人交渉方略―心の理論との関連から―, 二 川 敬 子, 高 山 佳 子, 横浜国立大学大学院 教育学研究科 教育相談・支援総合センター 研究論集 第 13 号 2013 年

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コラムtoiroは、発達障がいやコミュニケーションに苦手さを感じているご本人、学生さん、お子さんを応援するコラム。名前は、十人十色からつけました。
読者の方にとって、少しでも役に立つヒントになればうれしく思っています。
不定期ですが、ちょっとずつ更新していきます。

この記事を書いた人
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発達障がい当事者。お仕事では記事の執筆・イラストの制作・動画制作などを行っています。
ピアサポートグループの活動・講演会への参加などを通して、地方の町から発達障がいに関する発信を行っています。
こちらのブログ「toiro」では、自分自身の体験・身近な方々の体験談に基づいて「日常生活での気づき」「実際に役立った、二次障がいへの対処・予防方法」「猫の観察記録から学んだ、発達障がいとのつきあい方」などの記事を作成しています。