【toiro】隈なきをのみ見るものかは
今回の題名は、教科書でおなじみ「徒然草」からお借りしました。第137段の書き出しにこうあります。
“花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは”
満開の桜、満月ばかりが見るに値するものだろうか。そうではないんじゃないか……との意味です。
「そんなこといったって、一番良いものが手に入るのがいいに決まっているでしょう」というご意見もおありかもしれません。
ただ、実際に日々の生活を送っていると、思い通りにならない出来事はいくつもあります。そのときに、完璧じゃないからと見向きもしなかったり、ふてくされた態度を取ってしまったりするのは、あまりにもったいないことのように思われます。
目の前にあるものに、美しさや楽しみを見つけるには、ひと工夫が必要です。
盛りを過ぎた桜の下では、ほんの少しの風に応えて、一面の桜吹雪が舞うのを見ることができます。細い月の下では、暗がりのなかで風景の輪郭がぼやけた、幻想的な雰囲気を味わえます。そうした視点を見つけられる「ひと工夫する力」に、私たちは価値を感じているのかもしれません。
「徒然草」第137段、冒頭の書き出しの続きにはこうあります。
“ 雨に対ひて月を恋ひ、垂れこめて春の行衛知らぬも 「花を見て」と言へるに劣れる事かは”
雨の夜に見えない月へと思いをめぐらせたり、家に閉じこもっていて春の様子を知らなかったりするのも、「華やかに咲いた桜を見たよ」と歌に詠むのに、ことさら劣るものではないだろう……との意味です。
今できること、目の前にあるものを楽しむ工夫ができれば、毎日はなかなか素敵なものになりそうです。
はからずも、今は葉桜の季節です。鮮やかな緑色を通して、いつかの春に思いをはせるのも、楽しむ工夫のひとつかもしれませんよ。

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コラムtoiroは、発達障害やコミュニケーションに苦手さを感じているご本人、学生さん、お子さんを応援するコラム。名前は、十人十色からつけました。
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不定期ですが、ちょっとずつ更新していきます。

発達障害当事者。お仕事では記事の執筆・イラストの制作・動画制作などを行っています。
ピアサポートグループの活動・講演会への参加などを通して、地方の町から発達障害に関する発信を行っています。
こちらのブログ「toiro」では、自分自身の体験・身近な方々の体験談に基づいて「日常生活での気づき」「実際に役立った、二次障害への対処・予防方法」「猫の観察記録から学んだ、発達障害とのつきあい方」などの記事を作成しています。








